SI Link Journal

外観検査AIは何を改善するか――不良流出と検査原価の両面から

BUSINESS / 中小企業の経営
白い工業用カメラとリング照明が、深い赤の検査台に置かれた銀の歯車を撮影する写真調の画像。外観検査の撮影条件と品質管理を表す

検査の費用は、人件費だけでは測れません

検査工程は、製品に新たな価値を加えません。それでも省くことはできず、人を増やせば原価が上がり、減らせば不良が客先へ流れる危険が高まります。外観検査AIの検討では「検査員を何人減らせるか」が最初に問われがちですが、それだけで投資を判断すると効果を見誤ります。検査は、不良を見逃して流出させる損失と、良品を不良と判定して廃棄や再検査に回す損失という、性質の異なる二つの損失を同時に管理する工程だからです。

本稿では、食品と自動車部品の公表事例を手がかりに、外観検査AIが何を改善し、何を経営の判断として残すのかを整理します。

キユーピーとトヨタ自動車の公表事例

キユーピー株式会社は2019年2月、自社開発したAI原料検査装置を惣菜の原料検査へ広げたと発表しました。対象は、ポテトサラダなどに使ういちょう切りのニンジンです。グループのデリア食品株式会社の惣菜工場で2019年1月から導入し、運用と検証を行っていると説明しています。従来は規定外の形状や変色、夾雑物を人が目視で取り除いており、作業者の身体的負担の大きさが課題でした。同社は2016年に開発に着手し、2018年8月からはベビーフード用の冷凍角切りポテトとニンジンの検査で本格導入していました。発表に検出精度や削減人数の数値はなく、惣菜工場での導入は検証を兼ねた段階と読むのが適切です。
https://www.kewpie.com/newsrelease/2019/1152/

自動車部品では、武蔵精密工業株式会社のグループ会社Musashi AI株式会社が、トヨタ自動車株式会社の本社工場にAI外観検査機を納めています。トランスミッションギヤの生産ラインで2020年12月に量産稼働を始め、2022年12月の発表時点で、本社工場を含む生産現場に合計8台を段階的に導入したとしています。同じ発表には、1人が1日に約数万歯の歯面を見る工程で負担が大きかったが、自動化で軽くなったというトヨタ担当者のコメントが載っています。ここでも精度や費用は公表されていません。最短1〜3か月で導入できるという説明は、提供者による標準機の紹介です。
https://www.musashi.co.jp/newsrelease/ai_3.html

「良品を学ぶ」設計が意味すること

二つの事例に共通するのは、人が長時間の目視判定を続ける負担を、装置に移したいという動機です。キユーピーの説明には、もう一つ重要な発想が含まれています。従来の装置では色差などの画像処理で不良のパターンを覚えさせる方式が一般的でしたが、不良の種類には限りがなく、高い精度を出しにくかったといいます。そこで同社は良品のパターンを学ばせ、「良品以外」をすべて不良として検出する方式を採り、精度が飛躍的に向上すると説明しています。

この設計は中小企業にも示唆に富みます。不良品の画像は集めにくくても、良品の画像は日々の生産で大量に得られるからです。一方で、良品の範囲から外れたものを広く拾うため、見逃しは減らしやすい反面、問題のない個体差まで不良と判定する過検出が増えやすいと考えられます。過検出の程度は公表されておらず、これは方式の性質から導いたSI Linkの考察です。

外観検査ではなく異音検知の例ですが、新潟県の米菓メーカー、竹内製菓株式会社の経験が参考になります。正常な動作音を学習してチェーンコンベアの異常を知らせる仕組みで、感度を上げると通知メールが多すぎてさばききれなくなり、システムを整えるまで半年程度の調整を重ねたと同社の常務取締役が語っています。外観検査でも、閾値(合否を分ける境目の値)をどこに置くかは技術者任せにできない品質方針そのものです。
https://aws.amazon.com/jp/solutions/case-studies/takeuchi-case-study/

検査原価と流出損失を同じ表で比べる

投資判断では、削減できる人件費に加え、過検出と流出の損失も金額に置き換えて比べます。以下は仮定にもとづくSI Linkの試算です。

2交代で各2名、計4名が全数を目視検査している工程を想定します。1人あたりの年間人件費を450万円とすると、検査原価は年1,800万円です。AIが一次判定を担い、不良判定品を人が再検する体制へ移り、再検要員を各交代1名、計2名残すとすれば、削減額は年900万円です。装置と導入作業に3,000万円、保守と再学習の費用に年300万円かかるなら、年間の正味効果は600万円で、単純な回収期間は5年になります。

ここに過検出を加えます。日産1万個で、AIが目視より1%多く良品を不良と判定し、再検しきれずに廃棄するなら、1日100個を失います。1個あたりの材料費と加工費が200円で年250日稼働なら、損失は年500万円となり、正味効果の大半が消えます。逆に、客先への流出が年に1件減り、1件あたり選別、交換、特急輸送などで300万円かかっていたなら、その分が効果に加わります。流出の損失は平時の原価計算に現れないため、過去数年のクレーム対応費から、発生頻度と1件あたりの費用を掛けた期待値で見積もります。

判定基準とモデルを、工程の一部として管理する

内部統制の観点で注意したいのは、AIの判定基準が誰の承認で変わるかです。目視検査では一般に限度見本(合否の境目を示す現物見本)を品質保証部門が定め、変更すれば記録が残ります。AIでは閾値の変更や追加学習で同じ境界が動き、しかも操作が画面上で完結するため、手続きを経ずに変わる恐れがあります。閾値と学習データの更新を工程変更と同じ手続きに載せ、品質責任者の承認、変更前後の判定結果の比較、適用開始日の記録を求めるべきです。装置の保守を外部に委託する場合は、委託先が実施できる変更の範囲を契約で定めます。

もう一つは判定記録の扱いです。合否だけでなく判定画像を製造ロットや時刻と結び付けて保存しておけば、流出が起きたときに対象範囲を絞り込め、選別や回収の費用を抑えられます。保存期間は、製品の保証期間や客先との取り決めから逆算します。加えて、照明の劣化やカメラの汚れで不良判定率が急に変わったときに検査を止め、目視に切り替える基準と手順を決めておくことが欠かせません。キユーピーが分解・洗浄しやすい構造を重視したことは、撮影条件を日々保つ意味でも理にかなっていると読めます。

中小製造業が導入を判断する条件

二つの外観検査の事例はいずれも大企業のものですが、キユーピーはベビーフード用の原料から惣菜へと適用範囲を広げ、トヨタへの装置も段階的に8台へ増えました。中小企業が同じ体制を前提にはできなくても、一つの工程から始めて実績で広げる進め方は応用できます。

判断の条件は三つです。第一に、対象の形状と撮影条件を一定に保てるか。品種の切り替えが多い工程では品種ごとに学習が要り、効果が出るまでの期間が延びます。第二に、合否の基準が限度見本や文書で定まっているか。人によって判定が揺れる工程では、AIに何を学ばせるかが決まりません。第三に、再検と例外処理を担う人員を残せるか。最初から全数の自動判定を目指さず、AIの一次振り分けと人の再検を組み合わせて、過検出率と、合格品の抜き取りで見つかる見逃しを数か月測ってから人員配置を見直せば、投資判断を実績で裏付けられます。

外観検査AIの導入は、検査員を減らす投資である前に、合否の基準を明文化し、判定を記録し、二種類の損失を金額で捉え直す取り組みです。検討に先立ち、過去数年の流出クレームの件数と対応費を集計し、目視で不良とした品を抜き取りで見直して、実際には良品だった割合を確かめてみてください。その二つの数字が、外観検査AIにかけられる投資額を考える出発点になります。

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