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AIが「10大脅威」に初めて入った――順位ではなく、止まる業務と預かる情報から対策費を配分する

TECHNOLOGY / 技術と社会
銀色の保存ドライブと外した深赤のケーブル、生成りの保護袋でオフライン保管と業務継続を表した静物写真

IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が2026年1月29日に公表した「情報セキュリティ10大脅威 2026」の組織編で、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が3位に入りました(https://www.ipa.go.jp/security/10threats/10threats2026.html)。AIに関する脅威が選ばれたのは今回が初めてです。1位は「ランサム攻撃による被害」、2位は「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」です。

この結果を受けて、AI対策の予算を検討し始めた会社もあるでしょう。ただ、順位をそのまま対策費の配分順にすると、自社にとって最も痛い損失を見落とすおそれがあります。本稿では、ランキングの性格を確かめたうえで、止まる業務、預かる情報、委託先との境界という三つの見積もりから対策費の配分を考えます。記述は2026年10月14日時点で確認したIPAの公表資料に基づきます。

順位は何を表しているか

IPAの説明によれば、10大脅威は、2025年に発生した社会的影響の大きい事故や攻撃の状況からIPAが候補を選び、研究者や企業の実務担当者など約250名の選考会が審議と投票を経て決めたものです。順位は専門家が社会全体への影響を評価した結果であり、自社で起きる確率や被害額は、各社が自ら見積もる必要があります。

IPA自身も、複数の脅威にまたがる事案があるとして、各自の環境に照らし、選出された脅威に極力もれなく対策を行うよう求めています。個人向けの10項目は、順位を付けず五十音順で示されています。ランキングは注意を向ける対象の一覧として読み、配分は自社の事情で決めるのが筋です。

4月2日には、IPAと、IPA内に事務局を置くAIセーフティ・インスティテュート(AISI)が「AI利用者のためのセキュリティ豆知識」を公表しました(https://www.ipa.go.jp/digital/ai/security/ai_security_tips.html)。AIにもセキュリティにも詳しくない利用者やマネージャを想定したスライド形式の資料で、「クラウドAIに営業秘密は教えない」「AI仕込みのサイバー攻撃も撃退法は従来通り」といった見出しが並びます。後者の見出しのとおり、AIへの対策を既存の守りの上に積み増すものとして位置づけると、予算の議論が整理しやすくなります。

対策費と停止損失を別の勘定で見る

経営判断で混同しやすいのは、毎年支払う対策費と、事故が起きたときに失う金額です。前者は予算として確定できますが、後者は発生確率が読めず、帳簿にも現れません。両者を一つの表で足し引きするより、停止日数ごとの損失を別表に整理し、対策費がその日数をどれだけ縮めるかで評価する方が、根拠を説明しやすくなります。

仮定を置いて計算してみます。いずれも説明のための仮定の数字です。月商1億円、限界利益率30%、月20営業日の製造業で、受注・出荷システムが5営業日止まるとします。失う限界利益は1億円×5/20×30%で750万円です。復旧後に受注の半分を取り戻せるとしても375万円が残り、外部業者の緊急対応費や残業代を300万円と見込めば、一度の停止で675万円前後の損失になります。復元手順を事前に検証して停止を2営業日に縮められれば、同じ前提で失う限界利益は150万円、緊急対応費を150万円と置くと計300万円となり、差は約375万円です。

この差額は一年で回収できる金額ではなく、一度の事故で避けられる損失の幅を示します。発生確率を無理に掛け合わせるより、何日までの停止なら事業を続けられるかを経営者が先に決め、その日数に収めるための費用を対策費として予算化すると、投資判断の筋が通ります。

なお、対策費にはクラウドサービスの利用料、機器の購入、ソフトウェアの導入が混在し、契約内容によって会計処理が異なり得ます。予算の段階で科目を分けておくと、予算と実績の比較がしやすくなります。

AIへの入力と既存のバックアップを両立させる

AIを業務に入れると、データの置き場所が増えます。社員がクラウドAIに貼り付けた文章や添付ファイル、会話の履歴、社内文書を検索させるために作った索引などです。これらの多くは、従来のバックアップ計画の外にあります。

ここで区別したいのが、原本と派生データです。図面、見積書、学籍簿、診療報酬の請求データのような原本は、これまでどおり基幹システムやファイルサーバに置き、バックアップと復元の対象とします。その前提として、バックアップ自体を社内ネットワークから切り離して保管し、実際に戻せるかを訓練で確かめておく必要があります。AIの検索用索引や要約は、原本から作り直せる派生データとして扱い、ランサム攻撃からの復旧では、原本を戻した後に索引を作り直す順番を手順書に書いておきます。古い索引をそのまま使い続けると、復元した原本と内容や閲覧権限がずれ、削除済みの文書や権限を外したはずの文書が検索結果に残るおそれがあるためです。

逆に、AIの回答をもとに作った見積書や議事録は、AIサービスの履歴に残しただけでは会社の記録として管理できません。採用した成果物は正規の保存場所へ移し、そこでバックアップの対象に含める運用が必要です。あわせて、クラウドAIに入力してよい情報の区分を決め、営業秘密や個人情報を扱う業務には、会社が入力データの扱いを契約で確かめた利用環境を用意すると、入力の制限と業務の継続を両立させやすくなります。学校や病院では、未成年者や患者に関わる情報を扱う業務と一般の事務とで、AIの利用環境そのものを分けておくことも検討に値します。

委託先との境界を書き出す

2位に入った委託先を狙った攻撃は、AIの利用と組み合わせて考える必要があります。保守を委託している業者が障害調査のためにログや設定ファイルを外部のAIサービスへ入力すれば、その情報は自社の管理の外へ出ます。契約書や覚書では、委託先が使ってよいAIサービスの条件、入力してよい情報の範囲、再委託の扱い、事故時の報告期限を定めておきます。委託先がAIで作業を効率化すること自体は妨げず、条件を明確にする趣旨です。

もう一つ書き出しておきたいのが、停止と復旧の判断権限です。システムを止める判断を誰がするのか、委託先が独自に止めてよい範囲はどこまでか、復元後に業務を再開してよいと確認するのは誰か。製造業なら生産管理と出荷、学校なら成績処理や入試の時期、病院なら医事会計や購買のように、止まると収入や対外的な責任に直結する業務ほど、自社と委託先の境界を一枚の表にしておく価値があります。表には、判断者が不在のときの代行者と、判断の記録を残す場所も加えておくと、事後の検証に耐えます。

配分の順番を決める

以上を踏まえると、対策費の配分は次の順番で考えられます。第一に、停止したときの損失が大きい業務を特定し、復元手順の検証で停止日数を縮めます。第二に、預かっている情報を区分し、AIに入力してよい範囲と会社が用意する利用環境を決めます。第三に、委託先との契約と判断権限の表を整えます。AIに固有の追加投資は、この三つの土台が整っているかを確かめてから判断すると、重複を避けやすくなります。

予算と実績の管理では、対策費の執行額に加えて、復元訓練で実際にかかった時間、会社が用意したAI環境の利用状況、委託先との取り決めの更新状況を年に一度確かめると、翌年の配分を見直す材料になります。10大脅威の順位は毎年変わり得ますが、自社で止まる業務と預かる情報は、経営者自身が把握できる事実です。順位を議論の入口にしつつ、配分の根拠を自社の数字に置くことが、限られた対策費を生かす道筋になります。

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